ADHDの人は貧困状態にある人が少なくないと思われます。
実際、ADHDの女性の3人に1人は貧困という研究結果もあります。
ADHDの人はお金の管理が苦手だったり、衝動的に買い物をしてしまう、買い物依存に陥ることもあります。それで貧困状態に陥ってしまう可能性があります。
また、遅刻が多かったり、人の話を聞いてないように見えたり、すぐに結果を欲しがる(長期目標が立てられない)というADHDの特徴により、仕事が続かなかったり、仕事を転々としてしまう可能性もあります。
実際、ADHDの人は職場を転々としがちであるという調査もあります。そしてその結果、貧困状態になるとも考えられます。
貧困がADHDを引き起こす場合も?
以上の理由から、ADHDが原因で貧困になる可能性も考えられます。
一方で、「貧困」が「ADHD(のような症状)の原因」となる場合もあります。
ADHD→貧困ではなく、貧困→ADHDの順番ですね。
慢性的な貧困が続く家庭では、次のような状況が見られます。
仕事が見つからない、見つかっても続かない。金銭管理が苦手。無計画に子どもが増えていく。子どもの世話に追われて時間がない。慢性的に睡眠不足だ。家が散らかっているなどなど。
仕事を探そうとしても、睡眠不足で記憶力も低下しているので、面接の日時を覚えていられません。さらに、その日時までに、身支度や家事等の段取りを整えて、間に合うように準備することは、脳の高度な機能(実行機能)を使わなければできないことなので、疲労しているときにはうまくいきません。その結果、なかなか職を得られず、貧困から脱出できずにいるのかもしれません
つまり、貧困という環境が、ADHDに似た症状を引き起こしてしまうということでしょうか。そしてそのような症状によって、ますます貧困になったり、別のさらに悪い問題を引き起こしてしまう場合があるようです。
「環境」がADHDの原因となっているということですね。
一見すると「ADHDではないか?」と思われるようなエピソードも、よく背景を聞いていくと、環境によって一時的に自己コントロールがききにくくなっていて、「ADHDに似た状態」になっているということもよくあります。
したがって、環境を変えるとADHDの症状がなくなる場合があるということです。興味深いのは、少年院や刑務所に入ると、ADHDの症状が落ち着く例が実際にあるそうです。
環境をできる限り変えてみると、うまくいっていない問題がADHDによるものなのか、そうでないのかがはっきりします。最も極端な例では、少年院や刑務所といった施設に入ってしばらくすると、ADHDが疑われていた方でも、ぴたりと落ち着く例もあるのです。
ADHDと貧困の関係は複雑
以上をふまえると、ADHDと貧困の関係は複雑であることがわかります。
ADHDが原因で貧困になる可能性もありますが、逆に貧困が原因でADHDと似た症状が出る可能性もあります。
最近ADHDと診断される人が急増していると言われていますが、もしかしたらその中には、環境が原因の人も含まれているのかもしれませんね。
そして環境が原因の場合は、環境を変えればADHDの症状がなくなる、ということです。これは従来のADHDの治療法とは異なる考え方だと思いますし、専門の医者以外の協力も必要になってくるでしょう。たとえば経済状況が良くなればADHDの症状がなくなるとするなら、経済学者などの、社会科学者の協力も必要になってくるのでしょう。
ADHDは環境が原因とする考え方は、フランスの考え方とも似ていると思いました。フランスではADHDを社会環境的なものと考えるそうです。
ただし日本ではまだADHDが環境によって引き起こされるメカニズムと、その対処法については、広く知られていないようにも思えます。今後の研究が期待されます。
参考記事:貧困はADHDを生み出す?