ジョン・エルダー・ロビンソン『変わり者でいこう あるアスペルガー者の冒険』という本を読みました。
これはアスペルガー症候群の当事者の人が書いた本です。当事者の人のこれまでの人生を振り返り、生き方のヒントのようなものをいくつか提案しています。
この作者は、これまでアスペルガー症候群で様々な苦労をしてきたようですが、現在は起業をして、経営者として活躍しています。
この本を読んで興味深かった点をいくつか紹介します。
自分の強みと興味を見出すのが成功の秘訣
作者によれば、アスペルガー症候群の人の成功の秘訣は「自分の強みと興味を見出すこと」だそうです。
第一の秘訣は、自分は何が得意で何にこだわりがあるかを知ることだ。在学中は、自分の弱点をつきとめ、それを改善することに大きな重点が置かれる。その弱点があなたの成長を阻んでいるなら、それを改善することは重要だが、それは大きな成功につながるものではない。成功するのは、あなたならではの強みを見いだし、それをさらに積み重ねていくときだ。弱点を集めていては、無能より少しましになれるだけでしかない。強みを重ねていけば、世界の頂点に立つこともあるかもしれない。
作者も言うように、特に学校では「強み」よりも「弱点」を改善することに重きを置かれますよね。おそらく大部分の学校の目的は、「平均的な人間」を育てることだからです。
しかしアスペルガー症候群の人の場合、弱点にばかり注意を向けていても、うまくいかない可能性が大きいでしょう。生まれつきの問題もあるからです。
それよりも、強みや興味を見出し、それに時間をかけて取り組むほうが、アスペルガーの人は上手くいくのかもしれません。
以下の文章も興味深いです。成功は「才能」ではなく「若いときに自分の興味ある分野をみいだし、それに精力を注いだ」結果だそうです。どれだけ早く自分の興味ある分野や強みを見出すかが重要なのかもしれませんね。
誰かが大人になって成功すると、人々はすぐにこう言う、「彼には、僕にはないような能力があるのさ!」。だが、それよりはむしろ、彼はごく若いときに自分の興味ある分野を見いだし、それに精力を注いだ、という可能性のほうが高い。本当に成功をもたらすのは、集中力と努力なのだ。
「一般的な統計」に目を向けるのではなく、「己の問題」に目を向ける
この本の作者は、40歳になって、はじめてアスペルガー症候群の診断を受けたそうです。これはかなり遅いほうでしょう。
作者は、アスペルガー症候群の検査や診断を積極的に受けたほうがいいと話します。検査や診断を受けたほうが自分についてよくわかるからだそうです。
人が検査や診断を避けるのは、一般的な統計にばかり目を向けるからだと作者は言います。
一部の人たちが検査の恩恵を見落とすのは、”診断を下される”ことへの先入観によって、考えが横道にそれてしまうからだ。己の問題に目を向けずに、その状況にからむ一般的な統計に目を向ける。
彼らが目にするのはこんな文句だ。「三十二%は自立した生活ができない」とか「六十六%は結婚もせず家庭をもつこともない」など。これらの数字のせいで、ひとりの人間としての自分の行く末を決める力は自分にある、ということを彼らは忘れてしまう。この一般的な統計を、自分たち自身の未来の予言だと解釈してしまうのだ。決してそのようなものではないのに。
一般的な統計は、あくまでそういう傾向があるということであって、必ずそうなるわけでもないし、こうするべきということでもないですよね。
しかし統計の数字を見て、自分もそうなってしまうのではないかと不安になったり、その数字の通りに自分の人生を進めてしまう人もいるのかもしれません。
統計の数字はあくまで事実や傾向を示しているだけで、それをふまえてどう行動するのかは自分自身の価値判断によるのだと思います。その点を気をつけないといけないと思います。
作者の成功は周りの人に恵まれていた可能性も?
作者はアスペルガーであるにもかかわらず、成功をおさめることができました。これは作者自身の努力によるものも大きいのでしょう。
ただし作者は周りの環境にも恵まれていた可能性も高いように思えます。
たとえば作者の父親は哲学の大学教授だったそうです。おそらく他の人より文化的なものに接する機会が多かったのでしょう。このことも作者の成功の原因のひとつのようにも思えます。
アスペルガー症候群の人すべてが作者のように恵まれているわけではないので、その点は差し引いて考えたほうがいいのかもしれません。
ただしこの本自体は、他にも面白いことがいろいろと書かれていて興味深いです。